急性大腸菌性乳房炎の重症度スコアリング
個人的な研究テ−マの1つである急性大腸菌群性乳房炎(acute coliform mastitis;ACM)。それほど発症頻度は多くないけど、重篤化した場合の損失が大きいので世界的にもよく研究されてますね。臨床型乳房炎の40%がグラム陰性菌によるもので、その内25%が重症例で淘汰・死亡しているとのことです。大腸菌群性乳房内感染症の80%が臨床型を呈し、その内10%が敗血症性ショックを呈するとの報告もあります。私の6年間の調査では死廃に結びついた症例は加療した症例のうち10%前後でした。国内の他の人の報告では34%が死廃になった、なんて報告もあります(高すぎ!!)。
ACMの治療における抗生物質の有用性については未だに議論が分かれてます。世界的には無効あるいは有害との意見が優勢のようです。でも、最近形勢が変化しつつあるのは御存知ですか?抗生物質を投与しても無投与との間に有効性に差が認められなかったとか、抗生物質投与によりエンドトキシンが大量に放出されかえってよくないとか、大腸菌は乳房内に長く存在しないから意味がないとか古くからいわれ続けていますが、近年、大腸菌性乳房炎は実験感染と自然発症ではその病態が随分違うことが報告されるようになってきました(同じ実験感染でもLPS性乳房炎とE.coli性乳房炎では病態はやはり大分違うようです)。自然発症例、特に重症例では48時間後でもかなりの菌数だそうで、菌数と重症度には関連性があるとの意見が認められるようになってきました。ほっといても大腸菌の増殖過程でエンドトキシンは放出されるし、菌数が増加すればエンドトキシン量も増加します(LPSはグラム陰性菌外膜の主要な構成成分なので当然です)。つまり、菌数がピ−クになる前に抗生物質で叩く、あるいは増殖期間を短縮させるという方法も一考に値するのではないかと思います。また、用いる抗生物質によってエンドトキシン産生量は異なることが明らかにされています。重症例では高率に菌血症を呈することが判明した今日、抗生物質投与の有用性につて再検討する時期が来ているのではないでしょうか。
重要なのは臨床的にACMの重症度をどうやって評価するか、ということでしょう。たいした治療をしなくても治ってしまう軽症例を含めた治療効果の報告には(私の前述の調査では大腸菌群が分離された頭数に対する診療依頼頭数の割合は35-45%程度であり残りは畜主の自家治療で治っている)懐疑的にならざるを得ません。かつては臨床症状からの病態の鑑別は困難とされていました。しかし、最近、この問題をクリアした報告がWenzらによってなされました。この論文は私にとって非常にショッキングで、今までのもやもやがこれで吹っ飛んでしまいました。Wenzらは死廃に結びつくような重症例を非常に高い特異度で予測できるスコアリング方法を開発したんです。つまり、病態別治療成績(特に重症例における治療効果)を臨床現場で検討することが可能となったのです。そういう意味で、今、我々は激動の真只中にいるんですよ。
ACMの理想的治療について考えてみましょう。牛は非常にエンドトキシン感受性が高いので、
1)速やかな菌体増殖阻止、菌体排除、Et排出
2)速やかなEtの中和、代謝促進
3)速やかな炎症産物、サイトカイン・ネットワ−クのコントロ−ル
の3点が治療方法として重要となるでしょう。これらの分野の急速な発展は目を見張るものがあります(特に免疫系、サイトカイン・ネットワ−クの分野は非常にホットです!!)。興味のある方は一度ネットで検索してみては?これらの検討にきっとWenzの重症度スコアリング方法は重要な役割を果すでしょう。
最後にWenzらの文献を紹介しておきます。
J Am Vet Med Assoc. 2001 Feb 15;218(4):567-72.
Use of systemic disease signs to assess disease severity in dairy cows with acute coliform mastitis.
Wenz JR, Barrington GM, Garry FB, Dinsmore RP, Callan RJ.
J Am Vet Med Assoc. 2006 Jul 15;229(2):259-62.
Comparison of disease severity scoring systems for dairy cattle with acute coliform mastitis.
Wenz JR, Garry FB, Barrington GM.
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